口唇裂の「きずあと」

子供のころに治療をうけた口唇裂の「きずあと」治療では、鼻の下から上くちびるまでのきずあとを自然で目立たなくすることを目標とします。エビデンスにもとづく治療でよりきずあとが目立ちにくい状態を目指します。
幅広いきずあと、へこんだきずあと
治療の前にきずあとの幅と口をすぼめる筋肉(口輪筋)の状態を確認します。口をすぼめる筋肉は口のまわりに円盤状に広がっています。幅広いきずあとや、きずあとがへこんで見えるような場合は、口輪筋同士がしっかりつながっていないことが傷がめだつ原因となっています。そのため筋肉のつながりを形成する手術を行います。
きずあとを切除して口輪筋を縫合しなおします。口輪筋の縫合が終わった段階で皮膚が隙間なくくっつく状態にすることで術後のきずあとが目立ちにくくなります。顔は初回手術のころに比べて唇や鼻、皮膚の厚さ、筋肉の大きさが大人サイズになっているため、より精密に組織を縫合することが可能です。顕微鏡や拡大鏡を使うことでさらに細かい手術操作や縫合がおこなえます。
2026.7追記
ボツリヌストキシンによる傷あと改善について
縫いなおした唇のきずあとをよりきれいに目立たなくする方法として、筋肉の動きを一時的に弱める「ボツリヌストキシン」を手術の直後に注射する方法が有効であることが報告されています [4] 。唇の傷あと修正手術を受けた患者さんを対象とした研究で、手術直後に傷のまわりの筋肉にボツリヌス毒素を注射したグループは、生理食塩水を注射したグループと比べて、6か月後の傷あとがよりきれいに治ることが確認されました。これは、ボツリヌス毒素が筋肉の動きを一時的に抑え、傷にかかる力(緊張)を減らすことで、傷あとを目立ちにくくすると考えられています。
上くちびるのひきつれ
上くちびるのきずあとがひきつれていて唇を閉じても隙間が空いてしまう「口笛変形」がある場合は、上くちびるの瘢痕のひきつれをゆるめる手術を行います。基本的には幅広いきずあとの治療と同じですが、傷あとのまわりの皮膚をずらしたり移動させることできずあとのひきつれをゆるめる工夫を加えます。
上くちびるのボリューム不足
上下の唇の厚みが極端に違う場合には、上くちびるにボリュームを補います。皮膚が足りないのか、粘膜が足りないのか,皮下脂肪が足りないのかを正確に判断したうえで治療法を決定します。
方法には舌の裏の粘膜移植 [1] や脂肪移植 [2] などがあります。
両側口唇裂の方の場合、上唇の組織が極端に不足している場合があります。その場合は下くちびるの中央から大きな組織を移植する必要あります。abbe flap(アッベフラップ)という名前の再建方法 [3] です。どうしても他の方法で治療が難しい場合に限っておこないます。
きずあとの最終タッチアップ
幅のほそいきれいなきずあとで、くぼみやひきつれもなく、ある程度目立たない状態になっている場合にはきずあとの最終タッチアップ治療を行います。
女性の場合はメイクである程度のかくすことができますが、白っぽくつるっとした質感でメイクがうまくのらないなど、気になる場合には炭酸ガスフラクショナルレーザー治療を行います。きずあとの凹凸や質感が改善し、目立たなくなります。
男性でひげがある方ではきずあとの部分に毛が生えないため、周囲の脱毛をおこなったうえで炭酸ガスフラクショナルレーザー治療を行うか、真皮に毛根も含めた植毛術をおこないます。ひげを伸ばすことできずあとをかくすことができます。ひげを伸ばさない方でも黒い点状の剃り跡によってカムフラージュ効果があります。片側唇裂であれば20本程度、両側唇裂であれば40本以上が移植の目安です。一度に移植できる密度には限界があるのでひげの濃さにあわせるために2~3回の植毛術が必要になる場合もあります。
参考文献
1. Cohen SR, Kawamoto HK : The free tongue graft for correction of secondary deformities of the vermilion in patients with cleft lip. Plast Reconstr Surg 88 : 613-9, 1991
2. Coleman SR : Structural fat grafting: more than a permanent filler. Plast Reconstr Surg. 118 : 108S-120S, 2006
3. Abbe R : A new plastic operation for the relief of deformity due to double harelip. Plast Reconstr Surg. 42 : 481–3, 1968
執筆

山下 明子 医師
YAMASHITA, Akiko
顔のクリニック金沢 院長
経歴:岐阜県出身
平成15年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業
同年 金沢医科大学形成外科入局
平成18年 産業医科大学形成外科留学
平成26年 金沢大学皮膚科形成外科診療班
平成29年 顔のクリニック金沢専任医師
専門医資格等:
日本形成外科学会 専門医
日本美容外科学会(JSAPS)認定 美容外科専門医
金沢医科大学形成外科学 非常勤講師
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※日本美容外科学会(JSAPS)認定 美容外科専門医につきましてはJSAPS日本美容外科学会HPでご確認いただくか、下記へお問い合わせいただきますようお願いいたします。 TEL:03-5291-6231 E-mail:office@jsaps.org