【学術活動】
ボツリヌストキシンを用いた
顔面神経麻痺後遺症の治療
●日本形成外科学会総会(一般演題)
【ボツリヌストキシンを用いた顔面神経麻痺後遺症の治療】
《ベル麻痺》や《ハント症候群》などによる顔面神経麻痺のあとにみられる後遺症症状として下記の3つがあげられる。
①不全麻痺:顔に麻痺が残っていて動きにくいところがある
②病的共同運動:口をうごかすと目が閉じるなどの意図しない動きがある
③過剰運動:麻痺のない側の筋肉がうごきすぎて表情の左右差が目立つ
この3つの症状をやわらげる目的でボツリヌストキシン(ボトックスビスタⓇ、アラガン社)をもちいて治療をおこなった。
ボツリヌストキシンを投与した表情筋(図は投与の一例)
①不全まひが残る筋の拮抗筋
まひが残っている筋肉と反対の動きをする筋肉(拮抗筋)にボツリヌストキシンを投与して動きを弱めることで、まひが残っている筋肉の力を間接的に強める。
例:眉を上げる前頭筋のまひがあるため眉を下に下げる《眼輪筋の一部》にボツリヌストキシンを投与する。
②病的共同運動のある筋
意図せずうごいてしまう筋肉にボツリヌストキシンを投与して動きを弱め、リハビリテーションで再発を予防する。
例:口をうごかすと目が閉じてしまうため、目を閉じる筋肉である《眼輪筋の一部》にボツリヌストキシンを投与する。
③過剰運動のみられる筋肉
まひのない側の動きすぎている表情筋にボツリヌストキシンを投与することで強すぎる動きを弱めて表情を自然にもどす。
例:笑ったときにまひのない側の口角が上がりすぎるため、口角にボツリヌストキシンを投与する。
ボツリヌストキシン投与後のリハビリテーション
ボツリヌストキシン投与後はリハビリテーションをおこなう。下記のようなパンフレットを用いて方法を説明した。
治療の効果について
Sunnybrook法を用いて治療の効果を判定した。治療前後でスコアの改善は5〜22点(100点満点)であった。
治療をおこなった全例で後遺症症状が改善した。また、投与後効果がなくなる3,4か月を経過しても一定程度改善した状態が続き、3ヶ月以上経過後のスコアも治療前より平均10点以上改善していた。
まとめ
ボツリヌストキシンを用いて顔面神経まひ後遺症の治療をおこない全例で顔の対称性の改善や共同運動の改善を認めた。また、治療後3ヶ月以上経過しても改善状態は一定程度持続していた。
お問い合わせ・ご予約
TEL 076-239-0039
10:00 a.m. ~ 18:00 p.m.
顔面神経麻痺後遺症のボトックス治療とリハビリテーション
【顔面神経麻痺(まひ)とは ?】
顔の表情をつかさどる《顔面神経》がはたらかなくなることで顔の片側がうごかせなくなる《顔面神経まひ》、毎年100万人あたり300人ほどの方がかかるといわれており、めずらしい病気ではありません。ヘルペスウイルスの一種による《ベルまひ》、水痘ウイルスによる《ハント症候群》があります。
まひになってすぐの治療は耳鼻科や神経内科が担当します。形成外科はまひによる顔のゆがみや回復してからの《後遺症》にたいする治療を担当しています。
顔面神経まひの後遺症に対する《ボトックスⓇ治療》とリハビリテーションをくみあわせた治療について説明します。
【顔面神経まひの後遺症】
①顔のまひ
時期:まひになった直後から
神経からの刺激がなくなるため顔の片側の筋肉がうごかなくなるため左右の表情の差がとても目立ちます。
②筋力低下
時期:発症後数か月〜
神経が再生して筋肉が動きはじめますが、数か月うごいていなかった筋肉はやせてしまっているため筋肉の力はとても弱く、左右の表情に差がみられます。
③病的共同運動
時期:発症後4か月目〜
神経が再生するときのエラーによって口元や目元のが意に反してうごいてしまう現象です。口を動かすと目を閉じてしまう、目を動かすと口元がピクピクするなど、目と口が連動してうごく症状が多くみられます。
④顔のこわばり
時期:まひになってから1年〜
うごかなくなった筋肉はかたくなりちぢまってこわばりや痛み、違和感の原因になります。
もっとも多い《病的共同運動》をはじめ、まわりの人が思っている以上につらいこの後遺症を顔のクリニック金沢では積極的に治療しています。
【顔面神経まひとボトックス治療】
顔面神経まひの後遺症はボトックスⓇ(ボツリヌストキシン)を使って治療することができます。ボトックスⓇには筋肉の動きを弱める効果があります。もともとは顔のけいれんや表情じわの治療につかわれてきたお薬です。こわばった筋肉やまちがってうごいている筋肉、まひのない側のうごきすぎている筋肉などをターゲットに少量ずつボトックスを注射することで表情の左右差やゆがみを整えます。
●治療の流れ
①まずは問診と写真撮影、表情の診察からプランシートを作ります。症状には個人差があるため、お一人おひとりに合わせた治療プランを作成します。ほかにも気になっている表情じわ(「目尻」や「眉間 」など)があれば、プランに組み込みますのでお申し出ください。
②プランシートに沿ってボトックスを注射します(下図は投与部位の一例です)。極細の注射針を使っていますが、顔のいろいろなところに注射をするので痛みをやわらげるために表面麻酔(クリームの麻酔)を塗ってから治療することも可能です。麻酔クリームを塗って30分程度おくことで注射の痛みがやわらぎます(ご希望の際は予約時にお伝えください)。
③プログラムに沿って表情筋のマッサージなどのリハビリテーションを開始します。正しいリハビリテーションを行うことで相乗効果が期待できるだけでなく、効果が持続して注射の間隔を長くすることができたり、リハビリテーションの効果で注射がなくてもある程度効果が持続することもあります。
④1-2週目の診察で効果が足りないところがないかチェックします。笑ったときの表情や口元を動かした時の表情などをみて必要ならボトックス注射を追加します。1回目の結果から次回のプランシートを作ります。
⑤効果は3−4か月持続します。2回目以降は3−4ヶ月おきに治療をおこないます。まずは3回治療をうけていただき、写真による効果判定を行います。ご希望に応じて4回目以降の治療を続けることも可能です。
ボトックスを使った顔面神経まひ後遺症の治療は、表情筋のバランスを整えることで、自然な表情をとりもどすための治療です。顔面神経まひの後遺症でお悩みの方がおられましたらまずはいちどご相談ください。
料金(保険適応外、税込)
初診料(初回の診察) 3,300円
顔面神経麻痺ボトックス治療 44,000円(プランシートの作成を含む、基本12単位まで)
追加10単位 13,200円
表面麻酔(クリームの麻酔) 2,200円
再診料(2回目以降の診察) 1,100円
※リスク・副作用・合併症
・内出血(注射針が血管に当たってしまった場合)
・妊娠・授乳中の方への施術不可
・目が閉じにくくなる可能性
・目が開けにくくなる、眼瞼下垂になる可能性
・表情の左右差
※ 表情じわの治療薬として厚生労働省の承認を得ているアラガン社のボツリヌストキシン、《ボトックスビスタ®》を使用しています。
※顔面神経麻痺発症から4か月以上経過した慢性期の方に対する治療です。
お問い合わせ・ご予約
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顔面神経麻痺の後遺症について
慢性期後遺症でみられる3つの症状
顔面神経まひ(ベルまひ、ハント症候群など)からの回復期に、《顔のゆがみ》や《こわばり》、《意に反して目や口が動く》といった症状がみられることがあります。これが《顔面神経まひの後遺症》です。
おもな症状は下記の3つです。
①筋肉の動きがよわい《筋力低下・不全まひ》
②神経の再生プロセスでのエラーにより筋肉が連動してしまう《病的共同運動》
③筋肉が硬くなってこわばってしまう《拘縮》
筋力低下・不全まひについて
顔面神経麻痺を発症すると表情筋はしばらく動かなくなります。神経が再生すると筋肉も動き始めますが、しばらく動いていなかった筋肉はやせて筋力がおちている状態です。筋力は徐々に回復していきますが、もとの筋力まで回復しなかった場合は筋力低下となります。また、神経の再生がうまくいかない場合まひが残ってしまうこともあります。完全なまひがのこることもありますが、少しうごくが反対側より弱いという《不全まひ》の状態になるパターンが多くみられます。
病的共同運動について
5本ある顔面神経が傷ついて麻痺が起こります。その後、耳のうしろの5本が合わさった付け根から神経が再生してきますが、このとき回復する神経が行き先を間違えたり、神経同士の連絡ができることがあります。この回復プロセスのエラーによって病的共同運動が起こります。よくみられる症状は、食事をしたり口を動かすと目が閉じてしまう、目を閉じると口もとが動いてしまうなどの動きです。ベル麻痺では約10%程度の方にみられます。
拘縮について
顔の筋肉のうち、目や口の周りにある表情筋は目を守ったり食事をとるなど体にとって特に大切な動きをしています。これらの筋肉を早く回復させようと脳からの強い指令がでるため、表情筋が常に緊張した状態となり、収縮して硬くなります。これが顔面拘縮です。自分で感じる症状は、顔のこわばりや引きつれ、ほうれい線が深くなる、目が細くなるなどです。
後遺症の予防
後遺症を予防するため、麻痺の早期からマッサージ、ストレッチ、鏡を使って動きを再学習する《ミラーフィードバック療法》などのリハビリテーションがおこなわれます。しかめ面や百面相など強い筋肉の動きを避けることも重要です。
発症から4カ月たって《慢性期》に入ってからも、症状が悪化しないよう、マッサージやストレッチなど根気良くリハビリテーションを続けることが大切です。
発症から1〜1.5年が経過すると、リハビリテーションによる回復の見込みが少なくなるため、後遺症に対する治療をスタートします。
後遺症の治療
後遺症に対する治療には《手術療法》と《ボトックス治療》があります。
手術療法は症状に応じてさまざまな方法がありますが、一例としてまぶたの左右差であれば眉の上を切開して引き上げる《眉毛挙上(固定)術》、リフトアップ手術を応用した《前額リフト》、目の周りの筋肉の拘縮で細くなった目に対する《挙筋前転法》、まぶたのたるみ取りを応用した《眉毛下切開法》《上眼瞼徐皺術》などがあげられます。
筋肉の動きをよわめる薬剤である《ボツリヌストキシン》を注射して自然な表情をとりもどす《ボトックス治療》は効果の持続が3〜4か月程度であるため、治療を繰り返し行う必要があります。治療効果を上げるために自宅でできるリハビリテーションについてもご案内しています。
顔のクリニック金沢では表情筋の動きを顔の治療を専門とする《形成外科専門医》が評価し、ボツリヌストキシンの投与量や投与する部位を決定します。多く投与してしまうと戻すことができないため、初期は1,2回のタッチアップ(追加、修正)により表情のバランスを調整します(下図は投与部位の例)。通常まずは3クール受けていただき、写真による効果判定をおこないます。その後も希望される場合にはひきつづき治療をおこないます(いずれも自由診療)。
顔面神経まひの後遺症に対する治療を希望される場合、治療の経過などについての情報いただけると治療をスムーズにはじめることができますので、まずは顔面神経麻痺の治療を受けている主治医にご相談いただき、紹介状をご持参のうえ診察におこしください。お一人おひとりの症状にあわせて治療のご提案をいたします。
お問い合わせ・ご予約
TEL 076-239-0039
10:00 a.m. ~ 18:00 p.m.
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