顔のクリニック金沢

COLUMN

コラム

顔面神経麻痺後遺症ボトックス治療とリハビリテーション

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□顔面神経麻痺の後遺症とは?

《ベル麻痺》《ハント症候群》などの《末梢性顔面神経麻痺》の回復期に生じるさまざまな不都合を顔面神経麻痺の後遺症といいます。

・発症から4か月~ 口と目が一緒に動くなどの病的共同運動

・8~10か月~    顔のこわばり、ゆがみ、左右差

そのほか「ワニの涙」とよばれる食事などの時に涙が出る症状も後遺症のひとつです。

 

 

 

□ボトックス治療の目的

①共同運動の改善

表情筋の一部を一時的に動かないようにすることで、間違って再生した神経をブロックして共同運動を改善させます。

②顔のこわばり、ゆがみ、左右差の改善

縮まって硬くなった表情筋をゆるめてこわばりや非対称を改善させます。

 

 

 

□後遺症の治療時期と方法

発症から4か月以降で、後遺症の症状がある方がボトックスによる治療の対象となります。共同運動やこわばりがみられる表情筋に筋肉の動きを弱める注射をします。

 

顔の写真や症状の問診をもとに、治療のターゲットとする表情筋を選びます。眼輪筋、上唇鼻翼挙筋、大頬骨筋、小頬骨筋、口唇下制筋、口角下制筋などがおもに注射の対象となります。

 

 

 

□注射後のリハビリ

下記の内容でリハビリテーションをおこないます。自宅でできる内容となっているため、一日のうち何回でも、可能な限り多めにおこなっていただくようにお願いしています。トイレに行ったときに鏡をみながらおこなっていただくことをおすすめしています。

①表情筋のストレッチ、マッサージ

 a. 目じりを横方向に引っ張る

 b. 指先を頬の中央にあてて縦、横、円を描くように動かす

 c. 口角を横方向に引っ張る

上記のa, b, cの動きをあわせて20秒程度おこなう。回数はできるだけ多く、こわばって縮まった表情筋を引き延ばすイメージで行う。

※麻痺していない側も一緒に行ってよい

※クリームなどをつけるとすべって表情筋を適切に引きのばすことができないため、肌が乾いた状態でおこなう

 

②眼輪筋のストレッチ:

額や眉を動かさないようにして、目の奥に力を入れて目を大きく開ける練習。目の周りの筋肉が伸ばされるのを感じる。

③ミラーバイオフィードバック:

鏡を見ながらゆっくりと口を動かす練習。このとき目が左右同じ大きさを保つように意識する。「ウー」「イー」「頬を膨らませる」の3つの動きをゆっくりとおこなう。

 

 

□効果の判定

注射の効果は半日程度から出始めて1週間目頃に最大となり、3-6か月続きます。注射の後1-2週目に治療前後の写真を使って効果を判定します。初回の反応をみて2回目以降の注射の量や位置を調整します。

 

 

□治療の費用

顔面神経麻痺後遺症に対するボツリヌストキシン注射は健康保険が適用されないため自由診療での治療となります。料金については料金表をご参照ください。

 

 

お問い合わせ・ご予約

TEL 076-239-0039

10:00 a.m. ~ 18:00 p.m.

 

【学術活動】顔面神経麻痺後遺症に対するボツリヌストキシンを用いたtotal facial balancing

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【目的】ベル麻痺やハント症候群などの末梢性顔面神経麻痺による後遺症に対し、頚部を含めた顔面全体の静的、動的非対称を改善する目的でボツリヌストキシンを用いた治療を行いその効果と持続性について検討したので報告する。

 

【方法】2019年1月から2023年12月までに顔面神経麻痺後遺症に対してボツリヌストキシンによる治療を行った症例を対象とし、診療録と臨床写真を用いて後ろ向きに調査を行った。投与部位は患側、健側を問わず顔面、頚部の安静時、運動時に左右差を認める表情筋等で、それぞれ1か所あたり0.25~6単位投与した。投与後は患者に表情筋ストレッチと、ミラーバイオフィードバック訓練によるリハビリテーションを指導した。治療効果と持続性を投与前、2週後、3ヶ月後の臨床写真をもとに評価した。

 

【結果】24例に対しのべ93回治療の治療を行った。1回あたりのボツリヌストキシン投与量は平均15.3単位であった。全例で顔面のこわばり、静的および動的な非対称、病的共同運動の改善を認めた。ワニの涙現象を認めた1例では涙腺への投与により流涙が消失した。顔面の対称性を評価するSunnybrookスコアは治療前70.7点、治療後87.3点と有意に改善を認めた(p<0.01)。

 

効果の持続性については拘縮の指標として安静時の瞼裂縦径を、病的共同運動の指標として運動時の瞼裂縦径を設定し統計学的に検討した。安静時の瞼裂縦径(健側との比)は治療前0.95、2週後1.03、3か月後0.97であり、拘縮については3か月で治療前の状態に戻っていた。一方、運動時の瞼裂縦径は治療前0.67、2週後0.93、3か月後0.75と治療後3か月を経過しても治療前に比し有意差を認め(p<0.05)、病的共同運動に関しては治療効果が3か月以上にわたり持続することが明らかとなった。

 

【考察】ボツリヌストキシンによるtotal facial balancingは低侵襲で顔面神経麻痺後遺症患者のQOL改善に有効な治療法と考えられた。

【学術活動】
ボツリヌストキシンを用いた
顔面神経麻痺後遺症の治療

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●日本形成外科学会総会(一般演題)

【ボツリヌストキシンを用いた顔面神経麻痺後遺症の治療】

《ベル麻痺》や《ハント症候群》などによる顔面神経麻痺のあとにみられる後遺症症状として下記の3つがあげられる。

 

①不全麻痺:顔に麻痺が残っていて動きにくいところがある

②病的共同運動:口をうごかすと目が閉じるなどの意図しない動きがある

③過剰運動:麻痺のない側の筋肉がうごきすぎて表情の左右差が目立つ

 

この3つの症状をやわらげる目的でボツリヌストキシン(ボトックスビスタⓇ、アラガン社)をもちいて治療をおこなった。

 

 

ボツリヌストキシンを投与した表情筋(図は投与の一例)

①不全まひが残る筋の拮抗筋

まひが残っている筋肉と反対の動きをする筋肉(拮抗筋)にボツリヌストキシンを投与して動きを弱めることで、まひが残っている筋肉の力を間接的に強める。

例:眉を上げる前頭筋のまひがあるため眉を下に下げる《眼輪筋の一部》にボツリヌストキシンを投与する。

 

②病的共同運動のある筋

意図せずうごいてしまう筋肉にボツリヌストキシンを投与して動きを弱め、リハビリテーションで再発を予防する。

例:口をうごかすと目が閉じてしまうため、目を閉じる筋肉である《眼輪筋の一部》にボツリヌストキシンを投与する。

 

③過剰運動のみられる筋肉

まひのない側の動きすぎている表情筋にボツリヌストキシンを投与することで強すぎる動きを弱めて表情を自然にもどす。

例:笑ったときにまひのない側の口角が上がりすぎるため、口角にボツリヌストキシンを投与する。

 

 

ボツリヌストキシン投与後のリハビリテーション

ボツリヌストキシン投与後はリハビリテーションをおこなう。下記のようなパンフレットを用いて方法を説明した。

 

治療の効果について

Sunnybrook法を用いて治療の効果を判定した。治療前後でスコアの改善は5〜22点(100点満点)であった。

治療をおこなった全例で後遺症症状が改善した。また、投与後効果がなくなる3,4か月を経過しても一定程度改善した状態が続き、3ヶ月以上経過後のスコアも治療前より平均10点以上改善していた。

 

 

まとめ

ボツリヌストキシンを用いて顔面神経まひ後遺症の治療をおこない全例で顔の対称性の改善や共同運動の改善を認めた。また、治療後3ヶ月以上経過しても改善状態は一定程度持続していた。

 

お問い合わせ・ご予約

TEL 076-239-0039

10:00 a.m. ~ 18:00 p.m.

 

 

執筆

山下 明子 医師
YAMASHITA, Akiko

顔のクリニック金沢 院長

経歴:

岐阜県出身
平成15年 富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業
同年 金沢医科大学形成外科入局
平成18年 産業医科大学形成外科留学
平成26年 金沢大学皮膚科形成外科診療班
平成29年 顔のクリニック金沢専任医師

形成外科 専門医
日本美容外科学会(JSAPS) 専門医
金沢医科大学形成外科学 非常勤講師